非結核性(非定型)抗酸菌症

検診で胸部レントゲン検査上異常陰影を指摘され、結核菌の仲間だが人にうつさないといわれる場合があります。結核菌の仲間で結核とは違うといわれるのは非結核性抗酸菌症(長い間非定型抗酸菌症と呼ばれてきました)と呼ばれる菌で土壌や水中などの自然環境に広く存在しています。抗酸菌には結核菌・らい菌・非結核性抗酸菌があり、前2者以外の抗酸菌をすべて非結核性抗酸菌症と呼び、毎年のように新しい菌が見つかっています。抗酸菌というのは酸に抗う(あらがう)と書きますが、実際胃の酸にも強く夜間のセキなどで排菌した菌を飲み込んでいる場合があり、痰が出ない場合胃液を検査することにより、診断がつくことがあります。
 
健康体の方は、非結核性抗酸菌が気道を介して侵入しても通常は速やかに排除されて容易に病気を生じません。ただしいろいろな要因(必ずしも未だ十分解明されていません)が重なると、感染が成り立ち、肺結核性抗酸菌症を生じうると考えられています。

 日本で多い菌種は
Mycobacterium avium complex
(アビウムコンプレックス、別名MAC症:マック症): 70%以上
Mycobacterium kansasii 
(カンサシ):10〜20%
この2種類で90%以上をしめます。

MAC症中高年女性に発症することが多く、初期は無症状で、肺の中下肺野に多発性の小結節や気管支拡張像が認められることが多いのですが、突然血痰が出て、レントゲンを撮り発見されることもあります。
 症状としては
咳・倦怠感、進展すると発熱・体重減少・喀血・息切れが生じることもあります。
カンサシは男性に多く、肺の上葉に空洞を生じることが多く、この菌種のみ人から人への感染がありうるかもしれないといわれています。

診断
喀痰・胃液・気管支鏡による気管洗浄液を材料として、
ー抗酸菌を塗抹(痰をガラス板に薄く挽き、顕微鏡で菌を確認)
ー培養(通常8週間培養します)で証明すること
ーPCRといって遺伝子増幅手技を用いる方法
(1週間以内にMAC症は判定できることがあります。)
または気管支鏡を用いた肺生検による組織診・抗酸菌の証明で行います。

 
治療
 治療かなり難しく、
 −臨床用量で完全に殺菌効果を持つ薬剤が現状では存在していない点
 −結核菌と異なり、検査室での薬剤に対する標準的感受性検査が確立していない点
 ーその結果が生体内の薬効と結びつかない点
が治療を決める上で壁となっています。
 ただ
カンサシに関しては通常結核菌の治療に使われる薬剤に有効ですが3剤を菌陰性化後も1年間投与する必要があります。
 日本で最も多い
MAC症は最も治療が困難であり、経過の長い慢性感染の方が多く、排菌が続いている場合は、現在リファンピシン・エタンブトール・クラリスロマイシンにストレプトマイシンまたはカナマイシンの筋肉注射を加えた治療法が進められています。
 初回治療でかなり改善の認められる方もいらっしゃいますが、いったん減少した排菌量が治療中にもかかわらず、再増加する場合もあり、治療を断念することも多く、無症状で排菌の少ない方の治療方針はまだ明確になっていません。
 いざ治療となると、クラリスロマイシンですと200mgの大きな錠剤を通常感染時の1.5〜2倍量である、600〜800mgを毎日、ストレプトマイシンかカナマイシンの筋肉注射を週2〜3回が加わりますので、患者さんとしてはかなりの負担になることは間違いなく、治療の続行にも困難があります。
 排菌のない方、症状・レントゲン上陰影の変化が少ない方は数ヵ月ごとレントゲンで経過をフォローしているだけの場合も多く見受けられます。数年間変化なしで過ごされる方も数多く見られますので治療をどのように続けていくか難しいのが現状です。
 エイズの患者さんがかかることも多い病気のため、今後安全で良好な効果のある薬剤が早く開発されることが望まれています。


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